謝罪広告事件
4 訴え
被告による虚偽の事実の発表によって事故の名誉が毀損されたとして、名誉回復のための謝罪文の新聞紙上への掲載と同謝罪文の放送局でのラジオ放送を求めて、訴えを提起した(民法723条)
10 謝罪広告の分類
・新聞紙に掲載することが謝罪者の意思決定に委ねるを相当とし、これを命ずる場合の執行も債務者の意思のみに係る不代替作為として間接強制によるを相当とするもの
・謝罪広告を新聞紙に掲載することが債務者の人格を無視し著しくその名誉を毀損し意思決定の自由ないし両親の自由を不当に制限することとなり、いわゆる強制執行に適さない場合
・単に事実の真相を告白し陳謝の意を表明するに留まる程度のもの。強制執行も代替作為として代替執行の手続きによることを得るもの
11 代替執行も可能な謝罪広告の内容
単に事実の真相を告白し陳謝の意を表明するに留まる程度のもの
12 田中補足意見、藤田反対意見
田中補足意見:憲法19条の「良心」というのは、謝罪の意思表示の基礎としての道徳的の反省とか誠実さというものを含まない。宗教上の進行に限らずひろく世界観や主義や思想や主張をもつことにも推及されている。
藤田反対意見:憲法19条にいう「良心の自由」とは単に事物に関する是非弁別の内心的自由のみならず、かかる是非弁別の判断に関する時効を外部に表現するの自由並びに表現せざるの自由をも包含するものと解すべき
加持祈祷事件
加持祈祷によって被害者を死亡させた被告人が傷害致死罪で起訴された刑事事件。宗教的行為に法的規制を及ぼすことが、憲法20条1項の信教の自由に反しないかが問題となった。
1 公訴事実となった被告人の行為
Aの家族から加持祈祷を依頼された被告人が、「線香護摩」を焚いて加持祈祷をした。嫌がるAを押さえつけながら祈祷をおこなったところ、Aに前進多数箇所に熱唱および皮下出血を負わせ、これらの受傷による有害分解産物吸収による二次性ショックならびに身体激動による疲労困憊に基づく急性心臓麻痺により死亡させた。
2 起訴の内容
傷害致死罪(刑法205条)
(傷害致死)
第二百五条 身体を傷害し、よって人を死亡させた者は、三年以上の有期懲役に処する。
客観的構成要件は、①身体を傷害、②人の死亡、③因果関係。
結果的加重犯であるから、身体を傷害することの認識があれば足りる。また、暴行致傷の結果的加重犯からの傷害致死であれば、暴行(有形力の行使)の認識があれば構成要件的故意としては足りる。
4 信教の自由と12条、13条との関係
信教の自由の保証も絶対無制限のものではない。
本件行為は、そもそも憲法上保護されているのか
保護されていない。被告人の行為が著しく反社会的なものであることは否定し得ないところであって、憲法20条1項の信教の自由の保障の限界を逸脱。
オウム真理教解散命令事件
オウム真理教の所轄庁である東京都知事と東京地検検事正が、東京地裁に対し、オウム真理教に対する解散命令を申し立てた事件(宗教法人法81条)。
侵害される権利
抗告人の信者の信教の自由を実質的に侵害するとする。
抗告人であるY代表役員代務者Bに主張適格が認められる理由については、特に述べられていない。
宗教法人法の解散事由
宗教法人法81条。
本件で問題となったのは、81条1項1号及び2号前段。
解散命令の法的帰結
解散命令によって宗教法人が解散しても、信者は、法人格を有しない宗教団体を存続させ、あるいは、これを新たに結成することが妨げられるわけではなく、また、宗教上の行為を行い、その用に供する施設や物品を新たに整えることが妨げられるわけでもない。すなわち、解散命令は、信者の宗教上の行為を禁止したり制限したりする法的効果を一切伴わない
宗教団体に法人格を付与する目的、および解散命令の趣旨
法人格を付与する目的は、宗教団体が礼拝の施設その他の財産を所有してこれを維持運用するなどのため。
解散命令の趣旨は、法律に明らかに違反するような、宗教団体に法律上の能力を与えたままにしておくことが不適切・不必要なときに、司法手続きによって宗教法人を強制的に解散し、その法人格を失わしめることが可能となるようにしたもの。
解散命令が個々の信者の宗教上の行為にもたらす影響
解散命令によって宗教法人が解散しても、信者は、法人格を有しない宗教団体を存続させ、あるいは、これを新たに結成することが妨げられるわけではなく、また、宗教上の行為を行い、その用に供する施設や物品を新たに整えることが妨げられるわけでもない。すなわち、解散命令は、信者の宗教上の行為を禁止したり制限したりする法的効果を一切伴わない
生じうる何らかの支障
宗教団体の解散によって清算される財産を用いて行っていた宗教上の行為を継続できなくなる
憲法判断の枠組み
比例原則を念頭においている。必要性(規制手段が規制目的の達成にとって必要最小限度であること)、適合性(規制手段が規制目的と合理的に関連すること)、狭義の比例性(規制手段の投入によって得られる利益と失われる利益のバランスが均衡を保っていること)。
厳格基準と厳格な合理性の基準の間くらい?
事後的な規制だし、信仰の自由の核心に対するものでもないし、間接的で事実上。
考慮要素
・法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められ、宗教団体の目的を著しく逸脱した行為をしたこと。
・宗教上の行為への支障。
・信者らの精神的・宗教的側面に及ぼす影響
合理性、必要性、失われる利益
・目的も合理的
・解散し、法人格を失わせることが必要かつ適切
・影響を考慮しても、オウム真理教の行為に対処するのに必要でやむを得ない法的規制
加持祈祷事件との類似点・相違点
類似点:宗教上の行為の自由が、絶対無制限のものではないこと
相違点:加持祈祷はそもそも保護範囲に入っていないが、オウム真理教解散命令は保護範囲に入っている。規制それ自体が宗教と関係あるか、制約効果が法的か事実上か。
神戸高専剣道実技履修拒否事件
剣道実技不参加原因で連続して2解進級できなかった学生に神戸高専が行った退学処分に対して、取消訴訟を提起した事件。
保健体育の位置づけ
全学年の必修科目。県道の授業は、学期の70天分、学年の35点分。
Xの信仰
エホバの証人。聖書に固く従う。
事故の宗教的信条と根本的に相容れないとの信念。
剣道以外の体育種目の受講態度
特に不熱心であったとは認められない。体育以外は優秀。
同様の学生に、代替措置を採用している高専もある。
XがYに提起した訴訟
退学処分及び原級留置処分の取消しを求める行政訴訟(行政事件訴訟法3条2項)。
判断枠組み
裁量統制の社会観念審査としての比例原則。必要性VS失われる利益
(政教分離は、学校側としてはその処分の必要性を基礎づける事項として主張した。)
それに加え、考慮すべきことを考慮していないという判断過程審査。
退学については、特に慎重な配慮を要するとする。そして、それは原級留置も同様。
教育課程における剣道実技の必要性
高等専門学校においては、県道実技の履修が必須のものとまでは言い難い。
Xの信教の自由の制約
Xの信教の自由を直接制約するものではないが、自己の信仰上の教義に反する行動をとることを余儀なくさせられる(間接的制約)
考慮すべきだった事項
理由が信仰の核心部分と密接に関連する真摯なものであったこと、不利益の大きさ。
代替措置をとらなかったことについて
代替措置をとることの是非、その方法、態様について十分考慮するべきであったがされていない。
もし十分考慮していたら
それでも、社会観念審査としての比例原則の部分は残るため、裁量権逸脱で違法となった可能性が高いのではないか。
信教の自由の考慮
信教の自由は、直接的制約とはされていないが、間接的制約であることが、考慮要素の考慮の必要性を基礎づける要素としてあげられている。
単に成績が下がった場合
そもそも、取消訴訟を提起する前提である処分性が認められないのではないか。
また、不利益が比較的小さいことから、裁量逸脱とまでは言われない可能性が高い
代替措置が不可能である事例
防衛学校、警察学校で行われる格闘技の授業。
中学校で、信条により英語の授業を受けない。
代替措置が不可能である場合には、必要性が高くなることから、比例原則の審査が合法に傾く可能性が高い。もっとも、それをきちんと考慮した前提であるが。
起立斉唱訴訟
どのような訴訟か
国歌斉唱の際に起立しなかったことが非違行為であることを理由として任用・再任用されなかったXが、不合格の取消し・無効確認、採用の義務付け、損害賠償を求めて東京都に訴えを提起した事案。
拒否する理由
日の丸や君が代が戦前の軍国主義等との関係で一定の役割を果たしたとする上告人地震の歴史観ないし世界観から生ずる社会生活ないし教育上の信念。保護範囲には含まれる。
しかし、制約が非常に弱い(ない)
内心説? 信条説?
不明。信条説っぽい。
内心説:人の内心におけるものの見方ないし考え方を広く意味する
信条設:内心における見方ないし考え方のうち、信仰に準ずるべき世界観、、人生観等個人の人格形成の核心を形成するものに限られる
起立斉唱行為の性質
儀礼的な所作としての性質を有し、かつ、外部からもそのように認識。
一方で、国旗及び国家に対する経緯の表明の要素を含む行為であって間接的制約はある
思想・良心の自由を直ちに制約するか
しない
間接的制約となるものであることは認める。
間接的な制約が許容される場合
制限が必要かつ合理的である場合。
職務命令の目的及び内容並びに上記の制限を介して生ずる制約の態様等を総合的に衡量して、命令に必要性及び合理性が認められるか
間接的な制約となる?
なる
命令の目的及び内容
教育上の行事にふさわしい秩序の確保とともに式典の円滑な信仰を図るもの
許容される?
される
毎朝ホームルームで国旗を掲揚
思想良心の自由の直接的制約の類型
特定の思想又はこれに反する思想の表明として外部から認識されるもの。
個人の歴史観ないし世界観に反する特定の思想の表明に係る行為
ピアノ伴奏
入学式の国歌斉唱の際に「君が代」のピアノ伴奏をするという行為自体は、音楽専科の教諭等にとって通常想定され期待されるものであるから、制約はない。
これは、制約があるかいなかのメルクマールを、通常業務に含まれるか否かにゆだねていることによる
直接的・間接的
付随的:意見とは異なる弊害の抑止を狙った規制の結果、偶然的に意見表明の自由に制約が及んだこと
間接的:行動の結果としての弊害が直接的な規制対象だから、意見表明の自由の不利益の程度は小さいはずだ