酒癖の悪い人
Xは、既に何度も暴行事件を起こしており、警察からも飲酒を控えるように指導を受けていたことから、自らのその性癖について認識が有り、その性癖がある以上飲酒を抑止又は制限するなど危険の発生を未然に防止するように注意する義務を負っていたと考えられる。
したがって、当該客観的注意義務に違反し、法益侵害の現実的危険性を有する飲酒行為は、過失犯の実行行為にあたる。
そして、当該飲酒行為が有していた危険が被害者の死に現実化したと考えられることから因果関係も肯定され、過失犯の客観的構成要件に該当する。
また、主観的構成要件該当性についても、Xは飲酒時点において、その注意義務を認識した上で、あえて飲酒していることから、予見可能性を前提とした結果回避義務違反があったということができ、構成要件的過失があったといえる。
以上より、構成要件該当性が肯定される。
違法性阻却事由はない。
過失犯の実行行為たる飲酒開始時点では完全な責任能力があったと考えられることから、責任阻却もされない。
以上より、Xには過失致死罪が成立する。
飲酒後の暴行について認容していた場合
Xは、既に何度も暴行事件を起こしており、警察からも飲酒を控えるように指導を受けていたことから、自らのその性癖について認識が有り、その性癖がある以上飲酒を抑止又は制限するなど危険の発生を未然に防止するように注意する義務を負っていたと考えられる。
したがって、当該客観的注意義務に違反し、法益侵害の現実的危険性を有する飲酒行為は、傷害の実行行為にあたる。
そして、当該飲酒行為が有していた危険が被害者の死に現実化したと考えられることから因果関係も肯定される。
また、主観的構成要件該当性についても、Xは飲酒時点において、その注意義務を認識した上で、「また乱暴をするかもしれないが仕方がない」ということを認容しているのであれば、傷害の未必の故意があったということができ、主観的構成要件に該当する。
以上より、傷害罪の結果的加重犯である傷害致死罪の構成要件に該当する。なお、結果的加重犯の成立につき、加重結果についての故意は不要である。
違法性阻却事由はない。
故意犯の実行行為たる飲酒開始時点では完全な責任能力があったと考えられることから、責任阻却もされない。
以上より、Xには傷害致死罪が成立する。
殺害行為時に心神耗弱であった場合
そもそも、心神耗弱状態における殺人罪が認められる(減軽される)。
一方、後行行為について。
殺害行為時に心神耗弱であった場合であっても、飲酒行為時点において、客観的注意義務に違反し法益侵害惹起の現実的危険性を有する行為をしており、それが有する危険が被害者の死に現実化している以上客観的構成要件該当性が肯定される。
さらに、飲酒時点においてその注意義務を認識し暴行しうることを予見可能な状態であえて飲酒していることから予見可能性を前提とした結果回避義務違反があり構成要件的過失が認められる。
違法性阻却事由はなく、殺害行為時に心神耗弱であったとしても飲酒行為時に責任能力を有していた以上、責任阻却もされない。
死の二重評価の観点から、殺人にのみ死の結果を結びつけて、後行行為については、過失致傷にとどまる。
以上より、殺人罪が成立し心神耗弱を理由として減軽されるとともに過失致傷罪が成立する。なお、殺人罪の評価の中に過失致傷は含まれていると考えられ、過失致傷罪は殺人罪に吸収される。
飲酒しながらの暴行
長崎地判平4.1.14は、飲酒をして酩酊の度を深めながら暴行を継続しているものであり、犯行初期には単純酩酊状態で完全責任能力があったことから、「同一の機会に同一の意思の発動にでたもの」で、「実行行為は継続的あるいは断続的に行われたもの」として、犯行開始時に完全責任能力を有していた以上、39条2項の適用が排除されると考えている。
被告人の実行行為は、一連の暴行行為である。
ダンプカー
ダンプカーに無理やり引きずり込む時点で結果発生の現実的危険性があることから引きずり込む時点で実行の着手を認めることができる
未遂犯
スリがポケットに手を入れたが、Aは財布を自宅に忘れていた
(スーツの裏ポケットに財布を入れることが常習化している社会においては、)一般人としては、スーツの裏ポケットに財布があるということは十分に認識し得ることであり、それを基礎として一般人の観点から考えると、裏ポケットに手を入れる行為には結果発生の現実的危険性があったということができ、窃盗罪の未遂犯が成立する。
ただし、一般人として認識・予見しえないと考えるのであれば、行為者も財布の存在を認識していない以上、財布の存在を基礎とすることはできず、裏ポケットに手を入れたとしても現実的危険性がなく、未遂犯は成立しない
拳銃を奪ったが弾が入っていなかった
一般人としては通常警察官の有する拳銃には弾が装填されていると認識し得るものであることから、それを基礎として一般人の観点から考えると、奪った拳銃の引き金を引くことには結果発生の現実的危険性があるといえる。
したがって、殺意もあることから殺人罪の未遂犯が成立する。
精巧なマネキン
一般人としては、マネキン倉庫のそのマネキンがあった場所に警備員がいるということも認識し得る以上、それを基礎として考えると、警備員に対して発砲する行為は現実的な危険性を有する行為であることから、殺意もある以上殺人罪の未遂犯が成立する。
ただし、マネキン倉庫であり、そもそも人気が一切ないもので、一般人としても警備員がいるということを認識し得ないような状態であれば、客体がマネキンであることが基礎となるため、殺人罪の未遂犯は成立しない。
硫黄殺人
飲ませているものが、硫黄であるということが一般人が認識し得るのであれば、それが基礎となる(本件ではそのように考えてよさそうである)。それを基礎とした場合、硫黄を飲ませることは一般人の観点から結果発生の現実的危険性がある行為であるということはできないから、殺人罪の未遂犯は成立しない。
中止犯の成否
弾丸が残っていなかった場合
弾丸が残っていない以上、危険消滅させたということができないから、中止犯が成立しない
※「自己の意思により」ではなく任意性が否定されるため、中止犯は成立しないとも考えられないか
軽傷を負わせた場合
軽傷で済んでおり、それ以上の結果発生の危険性がない状態であれば、任意に中止したのであれば中止犯が成立しうる。
重傷を負わせた場合
重傷で、場合によってはそれ以上の結果発生の危険性もある状態であれば、発生させた危険を解消するために救急車を呼ぶなどの積極的な行動をとらなければ中止犯は成立しない
中止犯の任意性
以下、責任減少説より、主観説の立場にたって考える。
主観説においては、「たとえ欲してもできなかった」場合に任意性が否定され、「できるとしても欲しなかった」場合には任意性を肯定する。
強姦の被害者の哀願による場合
できるとしても欲しなかったとして、任意性が肯定される
周囲に人の気配がしたので犯行を断念した場合
たとえ欲してもできなかったとして任意性が否定される。