BENRY[ベンリ―]

法学の予習ノート

重複する訴えの禁止

142条の趣旨

142条の趣旨

①訴訟経済、②被告の応訴の煩、③既判力の矛盾抵触の防止

cf基本判例5「真理判断の重複による不経済、既判力抵触の可能性、被告の応訴の煩」

2つの判決が併存することになった場合

 先に出た判決の効力が優先すると考える。338条1項10号との関係で、後からでた判決は再審される余地があるが、前に出た判決は変わることがない(ただし、338条1項柱書但書により、再審される余地がない場合もある)

338条1項10号 不服の申立てに係る判決が前に確定した判決と抵触すること。

(再審開始の決定)
第三百四十六条 裁判所は、再審の事由がある場合には、再審開始の決定をしなければならない。
2 裁判所は、前項の決定をする場合には、相手方を審尋しなければならない。

「更に訴えを提起することはできない」の意味

 別訴(独立の訴え)を提起することができないという意味

債務不存在確認訴訟と給付訴訟

基本裁判例5の判断理由

 手形訴訟が通常訴訟と異なる訴訟手続であることから、手形訴訟による反訴を提起することができない。それにも関わらず手形訴訟による別訴を禁じることは、簡易迅速に債務名義を取得させ手形の経済的効用を維持するという手形訴訟制度を設けた趣旨を損なうものであるから、142条が適用されないとした

債務不存在確認を求める訴えの提起後に給付訴訟が提起された場合、適法か

 訴えの利益はある。しかし、訴訟物が同一債務であることから、訴訟経済、被告の応訴の煩、矛盾判決の防止の観点から反訴によらなければならないと解すべきである

 別訴による場合は、訴訟資料が異なるため、二重に証拠調べ等をする手間が生じるが、反訴によれば、それが生じない

 反訴は、142条の趣旨からすると、更に提起された訴えには当たらないと解される

給付訴訟が係属した後に、同一債務が不存在であることの確認を求める訴えが提起された場合

 まず、訴えの利益が怪しい。給付訴訟で既判力も執行力も得られるのであるから、訴えの利益がないとされるのではないか。

 それが認められたとしても、重複起訴として違法となる。反訴なら、別に弊害はないが・・・。やはり訴えの利益の問題?

最判平16.3.25(百選29)

 債務不存在確認の訴えの係属中に当該債務の履行を求める反訴が提起された場合には確認の利益が認められない。

 その理由は、既判力が給付訴訟によって得られるからである(補充性(方法選択の適否)の観点?)

 別訴で提起された場合、確かに同様に債務不存在確認の訴えが確認の利益がないことになりそうだが、そうした場合、それまで確認訴訟で得られた訴訟資料が無駄となり、訴訟経済を害することになるから、そもそも別訴提起が違法になると考えるべきである。したがって、別訴提起できない以上、確認訴訟の訴えの利益がなくなることはない。

相殺の抗弁と142条(重複訴訟の禁止)

「主張することは許されない」の趣旨

 相殺の抗弁を主張することができない(反対債権の存在に係る事実を主張したところで、相殺の効果が得られないという意味)

判例の根拠

 相殺の抗弁については、判決理由中の判断についても既判力が生じるから、相殺の抗弁の場合にも自働債権の存否について矛盾判決が生じ法的安定性を害しないようにする必要があることから、他の訴訟において自働債権として相殺の抗弁を提出する場合にも142条の趣旨が妥当する

自働債権の履行

 自働債権を訴訟物とする別訴により求める。しかしこの場合、相殺の担保的機能が害される(全額を回収できない)おそれがある

最判平成10.6.30との整合性

 平成10年判例は、明示的一部請求であって、既判力の矛盾抵触のおそれが生じないから。

追加問題

 5−4ルールを形式的に適用すれば、相殺の主張が許されないことになりそうだが、5−4の趣旨は矛盾判決の防止であり、本件はどちらも同一の裁判所に係属しているのであるから、許されることになりそう

最判平成18.4.14

 反訴原告において異なる意思表示をしない限り、反訴は、反訴請求債権につき本訴において相殺の自働債権として既判力ある判断がされた場合にはその部分については反訴請求としない趣旨の予備的反訴に変更されるとして、相殺の抗弁は許されるとした。

 処分権主義の観点から、多少問題はあるものの、自己に有利な形で訴訟を遂行したいtという当事者の観点からは、その合理的な意思を裁判所が汲み取ったものと考えられ、問題はないといえる 

 異なる意思表示をした場合には、3.12.17により禁じられる

抗弁先行型

 18.4.14のたつところによると、もとより相殺の抗弁は予備的抗弁であることから、相殺の抗弁として既判力ある判断がされた場合にはその部分については別訴の給付請求としない趣旨の請求がなされているとして、許されることになるのではないか