BENRY[ベンリ―]

法学の予習ノート

不法行為(故意)

ネット情報を信じて真実だと思って名誉毀損表現をした場合

 そもそも、個人の社会的評価を下げる行為を行っていることについての認識はあり、そのような意味での故意はある。

 しかし、真実であると信じて名誉毀損行為を行っていることから、不法行為責任を負わされる程の故意はないのではないかが問題となる。

 この点、刑法230条の2の規定が参考になる。

 というのも、そもそも憲法が21条で表現の自由を保障しつつも、刑法230条1項が名誉毀損行為を処罰しているのは、社会的害悪の大きい他者加害行為について憲法は保障しておらず、著しく他人の名誉を害する表現については憲法の保護範囲に含まれないからである(もし保護範囲に含まれるとしても、表現の自由といっても無制約に保障されるわけではなく、憲法13条が保障する個人の尊厳との関係等において内在的制約に服する)。

 しかし、名誉毀損表現であっても、(社会的害悪が小さく、また、)自己統治に資する表現については、保護範囲にあると考えるべきであり、少なくとも憲法230条の2に規定される、①公共の利害に関し、②専ら公益目的で、③真実であれば、そのような名誉毀損表現は憲法の保護範囲にあると考えられる。

 そうであるとすれば、そのような憲法の考え方は民法においても取り入れられるべきであって、上記①〜③の要件を満たす行為であれば、違法性を否定し、民法上の不法行為の責任を負わせるべきではないと考えられる。

 なお、真実でなくても、真実であると誤信していた場合について、その誤信が十分な根拠に基づくものであれば、萎縮効果の観点から、そのような名誉毀損表現も憲法の保護範囲にあり、同様の扱いをすべきである。

 これを本件について見ると、犯罪であるので①公共の利害に関するものであるかもしれないが、②単なる自己満足あるいは営利目的であるように考えられ、専ら公益目的とはいえない。③また、ネット上の書き込みという信頼の極めて薄い情報源によって真実であると思いこんでいることから、萎縮効果の観点からも保護すべき必要性はない。

 従って、民法上違法と評価される事実を認識して行っている以上、不法行為責任を負わせるべき故意があると言える。