BENRY[ベンリ―]

法学の予習ノート

強盗罪・詐欺罪の復習

新宿拳銃事件

 Xは、強盗殺人の故意でAに対して拳銃を発砲しており、結果発生の具体的危険性が生じていることから、Aに対する強盗殺人未遂罪が成立する。

 ※強盗致傷罪も成立するが、法条競合により強盗殺人未遂罪が成立する。

 一方、強盗殺人罪の主たる保護法益は生命身体であるところ、Bに対しても、強盗殺人未遂罪の客観的構成要件に該当する。Bに対しては、故意が問題となるが、故意は構成要件該当事実の認識認容であるため、およそ人に対して強盗殺人の故意で発砲したところ、人であるBに対して結果発生の具体的危険性を生じさせていることから、故意は阻却されない。

 したがって、Bに対しても強盗殺人未遂罪が成立する。

 Aに対する強盗殺人未遂罪と、Bに対する強盗殺人未遂罪は、同一の行為により異なる客体に結果を発生させて複数の構成要件該当事実を発生させていることから、観念的競合となる。

因果関係

 Xは、強盗の故意でAに暴行を加えており、強盗罪の実行行為を行っている。

 そして、強盗罪の実行行為により、最終的にAが転落死していることから、当該実行行為とAの死との間に因果関係があるかが問題となる。

 この点、実行行為は結果発生の具体的危険性を有する行為であることから、当該危険性が結果に現実化していれば、実行行為と結果との間に因果関係があるというべきである。

 これを本件についてみると、XがAに対して、犯行を抑圧する程度の激しい暴行を加えていることから、それによってベランダ越しに隣室に逃げようとしその過程で脚を滑らせて転落して死亡することも通常ありうる行為であり、Xの暴行には暴行に耐えかねたAがベランダ越しに隣室に逃げその過程で転落死する危険性を有していたものといえる。当該危険性が結果に実現している以上、本件実行行為と結果との間に因果関係を肯定できる。

 したがって、Xは強盗罪の結果的加重犯である強盗致死罪の罪責を負う。

(ベランダ越しに逃げる程度ならばありうるとかんがえるが、ベランダや隣室との間の状況によって、これも非常識とする見方もあるかもしれない。そうであるとすれば、因果関係は否定される。)

食い逃げからの暴行

 Xは所持金がほとんどなく支払う能力も意思もないにも関わらず、通常の客と同様に振る舞ってステーキランチとビールを注文し、飲食をしている。注文はレストランAの従業員に対する欺罔行為であり、それによって財物であるステーキランチとビールの交付を受けていることから、この時点で詐欺既遂罪が成立する。

 その後、逃げ出しているが、これ自体は何らの罪も構成しない。

 逃げている途中でAの従業員Bに追いつかれ、代金の支払を免れようと思いBの頭部を殴打し失神した隙にそのまま逃走しているが、これは代金債務という利得を免れるための行為でありすぐに返済をするべきところ一定の猶予を得ていることから、2項強盗罪の構成要件に該当し、当該行為に用いられた暴行によりBを失神させていることから、強盗致傷罪が成立する。

 詐欺既遂罪と強盗致傷罪の客体は、形式的には別のものであるが、前者の客体であるステーキランチとビールという財物と、後者の客体であるステーキランチとビールの代金債務は、実質的には同一のものであることから、前者は後者によって評価されているということができて吸収され、Xは強盗致傷罪の罪責を負う。

欺いた場合

 同様に、財物の交付について1項詐欺既遂罪が成立する。

 そして、Bを欺いて許可を得て、Aの店外に出てそのまま逃走したところ、そのまま逃げおうせていることから、AとBに面識がなければ、債権の行使を極めて困難にしたものと考えて、2項詐欺罪が成立すると考える。一方、面識があれば、2項詐欺罪は成立しない。

 前者であっても結局実質的に客体が同一であることから、どちらかの詐欺罪のみが成立し、後者であっても詐欺罪が成立するから、後者についての判断は実益がない。