BENRY[ベンリ―]

法学の予習ノート

請負契約

建物完成後引渡前の滅失

請負人の請負代金請求の可否

 請負契約における請負人の義務には、引渡しの義務も含まれていると考えられていることから、引渡しをしていない以上、未だ請負人の債務が履行されたということはできず、代金前払いの特約がないかぎりBはAに請負代金を請求することはできない(633条)。

※本件においては、いまだ請負人の債務が履行不能とはなっていないと考えられる。

注文者は何を請求できるか

①なお建物の完成を望んでいる場合

 請負人は、請負契約において仕事の完成を引き受けている以上、履行不能になっていない本件においては、いまだ注文者は請負人に対して仕事の完成を求めることができる(履行請求権)。

 当初の期限までに引渡しがされなかった場合には、債務不履行に基づく損害賠償請求をすることもできる(415条)。

②建物の完成を望んでいない場合

 いまだ請負債務が履行されておらず、また、履行不能となっていない本件において、注文者は、641条に基づく任意解除権を行使することができる。

 ただし、この場合、注文者は請負人に対して損害を賠償しなければならない。

 損害賠償の範囲は、①それまでに請負人が投下した費用及び②履行利益(全請負報酬額から履行が完了するまでに投下したであろう費用相当額を控除した額及び拡大損害)となる。判断が難しいところではあるが、不審火により消失した部分について請負人が投下した費用についても、損害賠償の範囲内となる。

請負の瑕疵担保責任

雨漏り

 請負契約では、瑕疵のない完全な仕事をすることが、請負人の義務となっているものと考えられることから、瑕疵担保責任を排除する特約がないかぎり、目的物の引き渡し後であっても、注文者は請負人に対して、瑕疵担保責任(634条)を追及することができる。

 瑕疵担保責任の内容は、①瑕疵の修補(同条1項)、②損害賠償の請求(同条2項、履行利益)である。建物が請負契約の目的物であるため、解除権を行使することはできない(635条ただし書)。

8年後に耐震強度が著しく不足することが判明

 本件建物が木造建築である場合には、引渡しから5年を経過していることから、瑕疵担保期間を伸長する特約がない限り、注文者は請負人に何の請求をすることもできない(638条本文)とも考えられるが、そもそも本件は新築住宅であり、住宅の品質確認に関する法律の適用を受け、主要部分に瑕疵がある場合には瑕疵担保責任の追及期間が10年となるため、責任を追及することができる。

 一方、鉄筋づくり等であれば、引渡しから10年以内であるため、注文者は請負人に対し瑕疵担保責任を追求することができる(638条ただし書)。

 請求できる内容は、①瑕疵の修補(同条1項)、②損害賠償の請求(同条2項、履行利益)である。耐震強度が著しく不足していることから、建物としての存在価値をなくすほどの重大な瑕疵であるとして、解除を認めるべきであるとする学説もあるが、通説はこれを否定している。

 一方、判例は、建物としての存在価値をなくすほどの重大な瑕疵である場合に、建物立て替え費用相当額の損害賠償請求を認めている。

請負契約における同時履行

 目的物の引渡しが要求される請負契約においては、目的物の引渡しと報酬の支払は同時履行の関係に立つ(633条本文)。

 したがって、請負人が同時履行の抗弁を用いて引渡しを拒んでいる場合には、注文者は報酬の支払をしなければ、目的物の引渡しを請求することはできない

関連条文

(報酬の支払時期)
第六百三十三条  報酬は、仕事の目的物の引渡しと同時に、支払わなければならない。ただし、物の引渡しを要しないときは、第六百二十四条第一項の規定を準用する。

(請負人の担保責任)
第六百三十四条  仕事の目的物に瑕疵があるときは、注文者は、請負人に対し、相当の期間を定めて、その瑕疵の修補を請求することができる。ただし、瑕疵が重要でない場合において、その修補に過分の費用を要するときは、この限りでない。
2  注文者は、瑕疵の修補に代えて、又はその修補とともに、損害賠償の請求をすることができる。この場合においては、第五百三十三条の規定を準用する。

第六百三十五条  仕事の目的物に瑕疵があり、そのために契約をした目的を達することができないときは、注文者は、契約の解除をすることができる。ただし、建物その他の土地の工作物については、この限りでない。

(請負人の担保責任に関する規定の不適用)
第六百三十六条  前二条の規定は、仕事の目的物の瑕疵が注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じたときは、適用しない。ただし、請負人がその材料又は指図が不適当であることを知りながら告げなかったときは、この限りでない。

(請負人の担保責任の存続期間)
第六百三十七条  前三条の規定による瑕疵の修補又は損害賠償の請求及び契約の解除は、仕事の目的物を引き渡した時から一年以内にしなければならない。
2  仕事の目的物の引渡しを要しない場合には、前項の期間は、仕事が終了した時から起算する。

第六百三十八条  建物その他の土地の工作物の請負人は、その工作物又は地盤の瑕疵について、引渡しの後五年間その担保の責任を負う。ただし、この期間は、石造、土造、れんが造、コンクリート造、金属造その他これらに類する構造の工作物については、十年とする。
2  工作物が前項の瑕疵によって滅失し、又は損傷したときは、注文者は、その滅失又は損傷の時から一年以内に、第六百三十四条の規定による権利を行使しなければならない。

(担保責任の存続期間の伸長)
第六百三十九条  第六百三十七条及び前条第一項の期間は、第百六十七条の規定による消滅時効の期間内に限り、契約で伸長することができる。

(担保責任を負わない旨の特約)
第六百四十条  請負人は、第六百三十四条又は第六百三十五条の規定による担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実については、その責任を免れることができない。

(注文者による契約の解除)
第六百四十一条  請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる。