BENRY[ベンリ―]

法学の予習ノート

員外貸付の効力

 原告が、被告に対し不動産の所有権移転登記の抹消登記手続きを求める訴訟

 訴訟物:所有権に基づく抹消登記手続請求

判例と裁判例の違い

裁判例:裁判所が過去に下した判決

判例:裁判例のうち、先例的意味を持つもの。重要なもの。

cf. 法律学小辞典 広義には過去に下された裁判をいう。教義には、それらに含まれる原則のうち、現在拘束力をもつもの。刑事訴訟法405条の「判例」は教義の判例。

上告理由第二点に対する判断の前提となる事実

 A労働金庫が昭和30年10月20日に、労働金庫の会員でない上告人(原告)に60万円を貸し付けた行為は、目的外の貸付であった

労働金庫のした貸付の相手方

第一審

 原告

控訴審

 結成されていない団体である組合→117条1項→控訴人(原告)

最高裁

 結成されていない団体である組合→117条1項→上告人(原告)

上告理由第一点

・原審判決は「金庫が右貸付をした際組合が存在しないことを知悉していたものであるとの控訴人主張事実を認めえないことは…明らかである」とするが、金庫は組合が存在しないことを知悉していた。従って、117条2項により同条1項は適用されず、上告人は本件貸付債権の債務を負わない。よって、抵当権及びその実行は無効である

・また、知らなかったとしても、民法117条2項の過失があった。従って、同様に、本件貸付債権の債務を負わない。さらに、当該過失に関して判断を示さなかったことは審理不尽の違法がある

員外貸付

 組合等において、その構成員以外の者に貸付を行うこと。本件は、労働金庫が貸し付けたものであり、労働金庫法58条1項2号は労働金庫の業務を「会員に対する資金の貸付」とするから、本件は員外貸付に当たるといえる

員外貸付の効力

第一審:直ちに無効ではない。目的の範囲外の行為ということができず、無効ではない

控訴審:目的の範囲外の行為であるとしてこれを直ちに無効であるとするのは相当でない

最高裁:所論の貸付が前記労働金庫の会員でない者に対する目的外の貸付であったことから、無効とすべきが相当

被担保債権

最高裁:貸付相当の金員を不当利得として労働金庫に返済すべき義務

無効主張が封じられる場合 

原債権が無効となる代わりに抵当権の被担保債権となる不当利得返還債権を弁済しない場合 

関連条文

民法

(法人の能力)
第三十四条 法人は、法令の規定に従い、定款その他の基本約款で定められた目的の範囲内において、権利を有し、義務を負う。

(無権代理人の責任)
第百十七条 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明することができず、かつ、本人の追認を得ることができなかったときは、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
2 前項の規定は、他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき、若しくは過失によって知らなかったとき、又は他人の代理人として契約をした者が行為能力を有しなかったときは、適用しない。

 

労働金庫法

(会員たる資格)

第十一条 労働金庫の会員たる資格を有するものは、次に掲げるもので定款で定めるものとする。
一 その労働金庫の地区内に事務所を有する労働組合
二 その労働金庫の地区内に事務所を有する消費生活協同組合及び同連合会
三 その労働金庫の地区内に事務所を有する国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)第百八条の二(職員団体)の規定に基づく国家公務員の団体、地方公務員法(昭和二十五年法律第二百六十一号)第五十二条(職員団体)の規定に基づく地方公務員の団体、健康保険組合及び同連合会、国家公務員共済組合法(昭和三十三年法律第百二十八号)に基づく共済組合及び同連合会、地方公務員等共済組合法(昭和三十七年法律第百五十二号)に基づく共済組合及び同連合会並びに私立学校教職員共済法(昭和二十八年法律第二百四十五号)の規定により私立学校教職員共済制度を管掌することとされた日本私立学校振興・共済事業団
四 前三号に掲げるもののほか、その労働金庫の地区内に事務所を有し、かつ、労働者のための福利共済活動その他労働者の経済的地位の向上を図ることを目的とする団体であつて、その構成員の過半数が労働者であるもの及びその連合団体
2 前項の規定にかかわらず、定款に定めのある場合には、その労働金庫の地区内に住所を有する労働者及びその労働金庫の地区内に存する事業場に使用される労働者は、その労働金庫の会員となることができる。
3 労働金庫連合会の会員たる資格を有するものは、その連合会の地区の一部を地区とする労働金庫であつて、定款で定めるものとする。

(金庫の事業)
第五十八条 金庫は、次に掲げる業務及びこれに付随する業務を行うものとする。
一 会員の預金又は定期積金の受入れ
二 会員に対する資金の貸付け
三 会員のためにする手形の割引

 

 

 

 

訴権の濫用

民事訴訟手続きの復習

東京地判平成13.3.27

訴状の記載

請求の趣旨

1 Yは、Xに対し、318万円5107円及びうち315万4000円に対する平成9年8月16日から支払い済みまで年3割の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用はYの負担とする

との判決及び仮執行宣言を求める

請求の原因

・返還約束

・金銭の交付

・履行期の合意

・履行期の経過

・利息の合意

訴訟物

 消費貸借契約に基づく貸金返還請求

請求原因事実

・返還約束

・金銭の交付

・履行期の合意

・履行期の経過

・利息の合意

手続経過

 Xが裁判所に訴状を提出し、裁判所がYの支配人としてのAに訴状を送達して、Yに訴訟を提起。

→AはYの支配人として出席し(会社法11条)、請求を認諾。

→Yは認諾調書の執行力の排除を求めて請求異議の訴え(Aは既に支配人ではなかったから、その訴訟行為の効果がYに帰属しない。したがって、)

→認容。執行力喪失

→Xが期日指定の申立てを行って、審理が再開。

請求異議の訴え

(請求異議の訴え)
第三十五条 債務名義(第二十二条第二号又は第三号の二から第四号までに掲げる債務名義で確定前のものを除く。以下この項において同じ。)に係る請求権の存在又は内容について異議のある債務者は、その債務名義による強制執行の不許を求めるために、請求異議の訴えを提起することができる。裁判以外の債務名義の成立について異議のある債務者も、同様とする。
2 確定判決についての異議の事由は、口頭弁論の終結後に生じたものに限る。
3 第三十三条第二項及び前条第二項の規定は、第一項の訴えについて準用する。

弁論の再開を求めたのは

 X。金銭の支払いを求めるため。訴訟費用の節約? Aに送ったのに、Yが応訴してくれている??(瑕疵の治癒)

判決の結論

 本件訴えは訴権を乱用するものであるから、不適法なものとして却下。

 Xの行為は、裁判所を欺いて債務名義を詐取するに等しく、また、訴訟手続を不正に利用してYに不利益を与えたことが、訴訟上の信義則に反する

本件訴訟における「訴権の濫用」という規律の異議

訴権の濫用を理由に訴えを却下しなかった場合

 本案審理に入り、おそらく請求棄却されていたと考えられる(p.10(3)(ア)参照)

却下と請求棄却の違い

 既判力の範囲

訴え却下の意味

 (信義則に基づき)訴訟要件を満たさないとする部分について既判力が生じる。同一の請求を立ててした場合も、同様に却下されると考えられる。

訴権の濫用というルールの意義

「訴権の濫用」というルールの存在理由

 司法資源の適正利用、有効利用、経済性。

 司法への信頼確保。

誰に対する関係か

 本件では、裁判所に対する関係と被告との関係と両方を述べている。

 信義則に反するような訴権の利用が、訴権の濫用と評価される。

最判昭63.1.26

損害賠償が認められるための要件

 「訴訟に置いて提訴者の主張した権利又は法律案系が事実的、法律的根拠を欠くものであるうえ、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるとき」

 本件においては、後者の、知っていた、又は容易に知り得たというところを欠くため、著しく相当性を欠くとは言えないとした。

弁護士としての対応

 訴権の濫用で却下を求める応訴をするとともに、損害賠償請求の反訴を提起する

精神的自由

謝罪広告事件

4 訴え

 被告による虚偽の事実の発表によって事故の名誉が毀損されたとして、名誉回復のための謝罪文の新聞紙上への掲載と同謝罪文の放送局でのラジオ放送を求めて、訴えを提起した(民法723条)

10 謝罪広告の分類

・新聞紙に掲載することが謝罪者の意思決定に委ねるを相当とし、これを命ずる場合の執行も債務者の意思のみに係る不代替作為として間接強制によるを相当とするもの

・謝罪広告を新聞紙に掲載することが債務者の人格を無視し著しくその名誉を毀損し意思決定の自由ないし両親の自由を不当に制限することとなり、いわゆる強制執行に適さない場合

・単に事実の真相を告白し陳謝の意を表明するに留まる程度のもの。強制執行も代替作為として代替執行の手続きによることを得るもの

11 代替執行も可能な謝罪広告の内容

 単に事実の真相を告白し陳謝の意を表明するに留まる程度のもの

12 田中補足意見、藤田反対意見

 田中補足意見:憲法19条の「良心」というのは、謝罪の意思表示の基礎としての道徳的の反省とか誠実さというものを含まない。宗教上の進行に限らずひろく世界観や主義や思想や主張をもつことにも推及されている。

 藤田反対意見:憲法19条にいう「良心の自由」とは単に事物に関する是非弁別の内心的自由のみならず、かかる是非弁別の判断に関する時効を外部に表現するの自由並びに表現せざるの自由をも包含するものと解すべき

加持祈祷事件

 加持祈祷によって被害者を死亡させた被告人が傷害致死罪で起訴された刑事事件。宗教的行為に法的規制を及ぼすことが、憲法20条1項の信教の自由に反しないかが問題となった。

1 公訴事実となった被告人の行為

 Aの家族から加持祈祷を依頼された被告人が、「線香護摩」を焚いて加持祈祷をした。嫌がるAを押さえつけながら祈祷をおこなったところ、Aに前進多数箇所に熱唱および皮下出血を負わせ、これらの受傷による有害分解産物吸収による二次性ショックならびに身体激動による疲労困憊に基づく急性心臓麻痺により死亡させた。

2 起訴の内容

 傷害致死罪(刑法205条)

(傷害致死)
第二百五条 身体を傷害し、よって人を死亡させた者は、三年以上の有期懲役に処する。

 客観的構成要件は、①身体を傷害、②人の死亡、③因果関係。

 結果的加重犯であるから、身体を傷害することの認識があれば足りる。また、暴行致傷の結果的加重犯からの傷害致死であれば、暴行(有形力の行使)の認識があれば構成要件的故意としては足りる。

4 信教の自由と12条、13条との関係

 信教の自由の保証も絶対無制限のものではない。

本件行為は、そもそも憲法上保護されているのか

 保護されていない。被告人の行為が著しく反社会的なものであることは否定し得ないところであって、憲法20条1項の信教の自由の保障の限界を逸脱。

オウム真理教解散命令事件

 オウム真理教の所轄庁である東京都知事と東京地検検事正が、東京地裁に対し、オウム真理教に対する解散命令を申し立てた事件(宗教法人法81条)。

侵害される権利

 抗告人の信者の信教の自由を実質的に侵害するとする。

 抗告人であるY代表役員代務者Bに主張適格が認められる理由については、特に述べられていない。

宗教法人法の解散事由

 宗教法人法81条。

 本件で問題となったのは、81条1項1号及び2号前段。

解散命令の法的帰結

 解散命令によって宗教法人が解散しても、信者は、法人格を有しない宗教団体を存続させ、あるいは、これを新たに結成することが妨げられるわけではなく、また、宗教上の行為を行い、その用に供する施設や物品を新たに整えることが妨げられるわけでもない。すなわち、解散命令は、信者の宗教上の行為を禁止したり制限したりする法的効果を一切伴わない

宗教団体に法人格を付与する目的、および解散命令の趣旨

 法人格を付与する目的は、宗教団体が礼拝の施設その他の財産を所有してこれを維持運用するなどのため。

 解散命令の趣旨は、法律に明らかに違反するような、宗教団体に法律上の能力を与えたままにしておくことが不適切・不必要なときに、司法手続きによって宗教法人を強制的に解散し、その法人格を失わしめることが可能となるようにしたもの。

解散命令が個々の信者の宗教上の行為にもたらす影響

 解散命令によって宗教法人が解散しても、信者は、法人格を有しない宗教団体を存続させ、あるいは、これを新たに結成することが妨げられるわけではなく、また、宗教上の行為を行い、その用に供する施設や物品を新たに整えることが妨げられるわけでもない。すなわち、解散命令は、信者の宗教上の行為を禁止したり制限したりする法的効果を一切伴わない

生じうる何らかの支障

 宗教団体の解散によって清算される財産を用いて行っていた宗教上の行為を継続できなくなる

憲法判断の枠組み

 比例原則を念頭においている。必要性(規制手段が規制目的の達成にとって必要最小限度であること)、適合性(規制手段が規制目的と合理的に関連すること)、狭義の比例性(規制手段の投入によって得られる利益と失われる利益のバランスが均衡を保っていること)。

厳格基準と厳格な合理性の基準の間くらい?

事後的な規制だし、信仰の自由の核心に対するものでもないし、間接的で事実上。

考慮要素

・法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められ、宗教団体の目的を著しく逸脱した行為をしたこと。

・宗教上の行為への支障。

・信者らの精神的・宗教的側面に及ぼす影響

合理性、必要性、失われる利益

・目的も合理的

・解散し、法人格を失わせることが必要かつ適切

・影響を考慮しても、オウム真理教の行為に対処するのに必要でやむを得ない法的規制

加持祈祷事件との類似点・相違点

類似点:宗教上の行為の自由が、絶対無制限のものではないこと

相違点:加持祈祷はそもそも保護範囲に入っていないが、オウム真理教解散命令は保護範囲に入っている。規制それ自体が宗教と関係あるか、制約効果が法的か事実上か。

神戸高専剣道実技履修拒否事件

 剣道実技不参加原因で連続して2解進級できなかった学生に神戸高専が行った退学処分に対して、取消訴訟を提起した事件。

保健体育の位置づけ

 全学年の必修科目。県道の授業は、学期の70天分、学年の35点分。

Xの信仰

 エホバの証人。聖書に固く従う。

 事故の宗教的信条と根本的に相容れないとの信念。

剣道以外の体育種目の受講態度

 特に不熱心であったとは認められない。体育以外は優秀。

 同様の学生に、代替措置を採用している高専もある。

XがYに提起した訴訟

 退学処分及び原級留置処分の取消しを求める行政訴訟(行政事件訴訟法3条2項)。

判断枠組み

 裁量統制の社会観念審査としての比例原則。必要性VS失われる利益

(政教分離は、学校側としてはその処分の必要性を基礎づける事項として主張した。)

 それに加え、考慮すべきことを考慮していないという判断過程審査。

 

 退学については、特に慎重な配慮を要するとする。そして、それは原級留置も同様。

教育課程における剣道実技の必要性

 高等専門学校においては、県道実技の履修が必須のものとまでは言い難い。

Xの信教の自由の制約

 Xの信教の自由を直接制約するものではないが、自己の信仰上の教義に反する行動をとることを余儀なくさせられる(間接的制約)

考慮すべきだった事項

 理由が信仰の核心部分と密接に関連する真摯なものであったこと、不利益の大きさ。

代替措置をとらなかったことについて

 代替措置をとることの是非、その方法、態様について十分考慮するべきであったがされていない。

もし十分考慮していたら

 それでも、社会観念審査としての比例原則の部分は残るため、裁量権逸脱で違法となった可能性が高いのではないか。

信教の自由の考慮

 信教の自由は、直接的制約とはされていないが、間接的制約であることが、考慮要素の考慮の必要性を基礎づける要素としてあげられている。

単に成績が下がった場合

 そもそも、取消訴訟を提起する前提である処分性が認められないのではないか。

 また、不利益が比較的小さいことから、裁量逸脱とまでは言われない可能性が高い

代替措置が不可能である事例

 防衛学校、警察学校で行われる格闘技の授業。

 中学校で、信条により英語の授業を受けない。

 代替措置が不可能である場合には、必要性が高くなることから、比例原則の審査が合法に傾く可能性が高い。もっとも、それをきちんと考慮した前提であるが。

起立斉唱訴訟

どのような訴訟か

 国歌斉唱の際に起立しなかったことが非違行為であることを理由として任用・再任用されなかったXが、不合格の取消し・無効確認、採用の義務付け、損害賠償を求めて東京都に訴えを提起した事案。

拒否する理由

 日の丸や君が代が戦前の軍国主義等との関係で一定の役割を果たしたとする上告人地震の歴史観ないし世界観から生ずる社会生活ないし教育上の信念。保護範囲には含まれる。

 しかし、制約が非常に弱い(ない)

内心説? 信条説?

不明。信条説っぽい。

内心説:人の内心におけるものの見方ないし考え方を広く意味する

信条設:内心における見方ないし考え方のうち、信仰に準ずるべき世界観、、人生観等個人の人格形成の核心を形成するものに限られる

起立斉唱行為の性質

 儀礼的な所作としての性質を有し、かつ、外部からもそのように認識。

 一方で、国旗及び国家に対する経緯の表明の要素を含む行為であって間接的制約はある

思想・良心の自由を直ちに制約するか

 しない

 間接的制約となるものであることは認める。

間接的な制約が許容される場合

 制限が必要かつ合理的である場合。

 職務命令の目的及び内容並びに上記の制限を介して生ずる制約の態様等を総合的に衡量して、命令に必要性及び合理性が認められるか

間接的な制約となる?

 なる

命令の目的及び内容

 教育上の行事にふさわしい秩序の確保とともに式典の円滑な信仰を図るもの

許容される?

される

毎朝ホームルームで国旗を掲揚

 

思想良心の自由の直接的制約の類型

 特定の思想又はこれに反する思想の表明として外部から認識されるもの。 

 個人の歴史観ないし世界観に反する特定の思想の表明に係る行為

ピアノ伴奏

 入学式の国歌斉唱の際に「君が代」のピアノ伴奏をするという行為自体は、音楽専科の教諭等にとって通常想定され期待されるものであるから、制約はない。

 これは、制約があるかいなかのメルクマールを、通常業務に含まれるか否かにゆだねていることによる

直接的・間接的

付随的:意見とは異なる弊害の抑止を狙った規制の結果、偶然的に意見表明の自由に制約が及んだこと

間接的:行動の結果としての弊害が直接的な規制対象だから、意見表明の自由の不利益の程度は小さいはずだ

 

任意捜査と強制捜査

最決51.3.16

任意処分と強制処分の区別

 「個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為」

 第1審判決は、「実質上・・・逮捕するのと同様の効果を得ようとする強制力の行使」か否かで判断しているが、最高裁は、「強制手段」の意味を抽象的に定義した上で判断している。「個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段」。判断基準の違い。

最高裁決定の判断

 任意処分とした。「呼気検査に応じるよう被告人を説得するために行われたものであり、その程度もさほど強いものではない」

・説得するため→個人の意思の制圧はない。(確かに、急に椅子から立ち上がって、出入り口の方へ小走りしているが)

・程度もさほど強いものではない→身体、住居、財産等の制約がない(重要な権利利益に対する実質的制約ではない。確かに、身体の自由、行動の自由が制圧されているが、両手で左手首を一時的に掴んだだけ。)

任意処分の許容基準

 判断基準は、「必要性、緊急性などをも考慮したうえ、具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容される」

 その理由は、「矯正手段にあたらない有形力の行使であっても、何らかの法益を侵害し又は侵害するおそれがあるのであるから、状況のいかんを問わず常に許容されるものと解するのは相当でな」いから。

 

本件制止行為について

 確かに、身体の自由、行動の自由が制圧されているが、両手で左手首を一時的に掴んだだけ。

 重要な権利利益に対する実質的制約があったとはいえず、「身体、住居、財産等に制約を加える」とまではいえない。現行刑事訴訟法に規定されている他の強制処分との比較からしても。もし重要な権利でなくても根拠法が必要であるとすれば、重要な権利利益については刑訴法を根拠に制約が認められるが、刑訴法に規定のない軽微な権利利益の制約は一切認められないという倒錯した状況が生じることになる。

任意処分の相当性の判断基準

 必要性・緊急性と被制約利益を比較考量して相当性を判断する。

 本件では、

・酒酔い運転の罪の疑いが濃厚→必要性(&緊急性)

・急に体質しようとした→緊急性

・説得目的の抑制(父による説得&母の来所待ち)、程度もさほど強いものではない→被制約利益の小ささ

→不相当とはいえない

任意処分はどこまで許されるか

 場合によっては、相当と認められる場合がありうるかもしれない。しかし、相手の身体をおさえつけて行動の自由を制圧するのであれば、そもそも意志に反する実質的な権利利益の制約として、強制処分となるのではないか。

・手錠をかけた→強制処分

・部屋の鍵をかけて退出できない状態→身体の自由を直接制限しているわけではないが、部屋から出られなくしており、行動の自由を制約しているため、強制処分となる可能性が高い。閉じ込めた時間にもよると思われる

・5人で取り囲んだことは、直接的に有形力を行使していないとしても、精神的に行動の自由を制約したといえるため、強制処分となる可能性があるといえる。ただし、数時間という時間をどのように評価するかという問題。実質的制約ではないとすれば、強制処分とまではならない。そして、任意処分としては、必要性・緊急性(←非協力的で粗暴な態度)と被侵害利益(数時間の制約)との比較で判断されることになる

京都府学連事件

任意か強制か

 強制処分ではない(任意処分)と考えている。

 「裁判官の令状がなくても」「現に犯罪が行われもしくは行われたのち間がないと認められる場合であって、しかも証拠保全の必要性および緊急性があり、かつその撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもって行われるとき」

 強制処分だとしたら、根拠法の話になるはずだが、それがなっていない。

 最決平成20.4.15も、ビデオ撮影について、強制処分ではない(任意処分)と考えている。

最決51.3.16との違い

 類似の枠組みといえる。しかし、みだりに容貌・姿態を撮影されない自由が重要な権利利益であるかは明示されていない(暗に否定されている)。

 加えて、現行性が要件として加えられている。

 また、必要性および緊急性と相当性との関係が多少異なっている(京都府学連事件は並列)

強制処分であるとした場合

 検証にあたるのではないか。検証とは、五官の作用によって観察する行為(GPS判決)。

 刑事訴訟法218条。

撮影による法益侵害の認定

 外部においては、プライバシーの合理的な期待は放棄されているため、それに対する侵害は生じない。他方、みだりに容貌・姿態を撮影されない自由は、場所に関わらず有しており、これに対する法益侵害が認められる。

 他方、内部においては、プライバシー権に対する侵害が生じている。

現行性について

 現行性は、本件の特殊事情ではないか。

 本来、現行性は、必要性、緊急性を考慮する上で考えるべきものなのではないか。

 したがって、現行性がある場合に限られる趣旨ではないと思われる。

 もし本件撮影が強制処分であるとしたら、強制処分法定主義違反及び令状主義違反の違法性を阻却する事由として現行性が用いられることになるのではないか。(違法収集証拠排除法則は、令状主義の精神を没却するような重大な違法で、かつ、将来の違法捜査抑止の観点から排除すべきかを判断)

最決平成20.4.15 

「必要な範囲において、かつ、相当な方法によって」

 緊急性は明示されていない。

公道上を撮影

 まず、強制処分にあたるか。この点、強制処分とは意思に反する重要な権利利益に対する実質的制約と考える。

 本件で、隠し撮りであることから、知っていたら拒否をするであろうことが推測され、本人の意思に反しているといえる。

 他方、出入り口前とはいえ、公道上であることから、プライバシーに対する合理的な期待が放棄されており、プライバシー権の侵害は生じていない。

 みだりに容貌姿態を撮影されない自由は侵害されているが、判例によればそれは「重要な権利利益」とはいえないため、強制処分とはならない。

 次に、任意処分としての適法性。必要性緊急性と被侵害利益との比較考量で相当性を判断する。

 本件では、既に発生した集団強盗事件の被疑者の容貌を目撃者及び被害者に示す必要性がある。緊急性は特に要素はないか。(現行性もない)。他方、失われる利益はみだりに容貌姿態を撮影されない自由であるが、集団強盗事件という重大犯罪であることに鑑みると、本件撮影の必要性が被侵害利益を上回り、相当であるといえる。したがって、適法である。

建物に出入りする全員の撮影

 上記と同様に、強制処分ではなく任意処分。しかし、必要性が薄いか。その場合、違法ともなりうる。

病院内での立入り

 病院の病室内において、プライバシーの合理的な期待が存在するかが問題。個室病室で鍵がかけられるような場合であれば、存在するかもしれないが、そうではない場合、病院関係者はもちろん、外部のものが(病院の許可を得て)その領域に立ち入ることは十分考えられるため、存在しないと考える。したがって、これもプライバシー権への侵害はなく、任意処分となるのではないか。

 必要性はあり、みだりに容貌姿態を撮影されない自由の侵害であることから、適法ではないか。

 1−8と同様。ただし、1−8とは異なり、証拠保全の目的がなく緊急性が薄いため、相当でないと判断する余地もある。

室内の撮影

 隠し撮りであり、意思に反している。

 住居内であることから、プライバシー権に対する侵害があり、重要な権利利益に対する実質的制約が生じているといえる。

 したがって、強制処分にあたり、令状なしに行うことは憲法35条に違反する(検証であるとしたら、刑事訴訟法218条違反となる)

東京地判平成17.6.2

 弁護人は、犯罪の発生が相当高度の蓋然性をもって認められる場合と主張する。

 最高裁は、「プライバシー侵害を最小限にとどめる方法」(被侵害利益)と「重大事案」(必要性)という観点から、弁護人の主張する内容がなくても、必要性・緊急性が非侵害利益を超えていると判断したものと考えられる。

梱包内容のX線検査

 判断基準自体は異ならないといえる。

 結論が異なったのは、X線検査によるプライバシー侵害が、「重要な権利利益に対する実質的制約」と言えるか否かの判断が分かれたため。

 原審は、内容物の形状や材質をうかがい知るだけではプライバシー権の実質的制約とまではいえないと考えた。

 最高裁は、私的領域への立入りが行われている以上、強制処分に当たるとした。

GPS捜査

最高裁の判断

最高裁:個人の意思を制圧+重要な法的利益を侵害→強制の処分

 個人の意思を制圧←「合理的に推認される個人の意思に反して」

 重要な法的利益を侵害←「私的領域に侵入」

 原判決は、強制処分に当たる可能性を示しつつも、プライバシー侵害の程度が小さいことから、違法収集証拠排除法則の観点から、排除しなかった

私的領域

 通常、他人が入り込むことが想定されていない領域。プライバシーの合理的な期待がある領域。

 プライバシーが侵害される。

プライバシー侵害が生じる段階

 「個人の行動を継続的・網羅的に把握」し始めた段階でプライバシー侵害が生じる?

捜査機関がGPS端末の装着を伴わなかった場合

 その場合、「そのような侵害を可能とする毀棄を個人の所持品に密かに装着することによって行う点」という部分がなくなり、「公権力による私的領域への侵入」というのが弱くなる。

 しかし、それであっても、個人の行動を継続的、網羅的に把握することは変わらず、プライバシー侵害が生じうる。

 そして、それが合理的に推認される意思に反するのであれば、強制処分となりうるのではないか。

「合理的に推認される個人の意思に反して」

 密かに行っているということは、公に行ったら断られることを示しているのではないか。

「GPS捜査は、被疑者らに知られず密かに行うのでなければ意味がなく」

補強証拠

補強法則

 自白だけでは有罪にすることができない。

 自白が完全に任意になされるのであれば、補強法則はいらないようにも考えられる。しかし、戦前、自白だけで処罰できるとしていた頃には、拷問を誘発した。すなわち、自白は完全に任意にされるわけではなく、往々にして任意性に疑いのある自白がなされ、それにより誤った判断をしてしまうおそれがあることから、補強法則が存在している。

 捜査機関の自白の強要がないとしても、犯人の蔵匿のために故意に虚偽の自白をする可能性もある。

 また、公判廷で自白している場合に、強要がないとしても、故意に虚偽の自白をする可能性があるのは同様である。

 

 自白以外の裏付け証拠について、証拠能力が認められなかった場合に問題となる。