BENRY[ベンリ―]

法学の予習ノート

不作為犯の復習

母親が出産直後の赤ちゃんをそのまま放置して死亡させた場合

 周囲の環境にもよるが、ここでは周囲に誰もいないところに赤ちゃんを放置したことを想定する。

 その場合、母親は、赤ちゃんの死という結果発生を支配できる状況にあり、また、820条の監護義務を負う(または、出産という先行行為を行っていることによる条理上の義務を負う)ことから、作為義務を肯定する。

 さらに、病院に連れて行ったり、いわゆる赤ちゃんポストを利用するといった行為をして、赤ちゃんの死という結果を回避するための行動は容易にとることができると考えられることから、作為可能性も肯定する。

 以上のことから、不作為の殺人罪が成立する。

全く無関係な赤ちゃんが捨てられていた場合

 周囲の環境がどうであれ、全く無関係な赤ちゃんが捨てられていた以上、本来は作為義務を負わず、不作為犯は成立しないのが原則。

 ただ、もし周囲に人がおらず、結果を支配できる状況である場合、当該状況と、自己の管理する庭に、保護せずにそのまま放置したら死んでしまうような赤ちゃんが捨てられているのを見つけたのであれば通常は警察や役所等に連絡する等の措置をとるべきであるという慣習・条理をあわせて、作為義務を肯定するという考え方もできる。

 その場合、警察や役所等に連絡する等の措置をとることは容易に可能であったことから、作為可能性も肯定すれば、不作為の殺人罪が成立しうる(故意がなければ保護責任者遺棄罪)。

医療不給付判例

 作為義務の内容が、自ら与えた争訟の悪化を防止すべく、意思による適切な治療を受けさせること、であったにも関わらず、飲食物の供与や化膿止の錠剤等を投与し氷枕をあてがう程度の行為しか行っていなかったことから、作為義務を果たしていないとして成立を認めている。

 本件においては、暴行は作為義務の前提となる先行行為としてしか扱われていないが、これは、暴行と死の結果を結びつけてしまうと過失致死罪しか成立しないことになるが、本件において被告人はより重い責任を負わせられるべき行為を行っていることから、あえて不作為の殺人罪として立件されたのではないか

繁華街運転中の当て逃げ

 繁華街を運転している以上、事故現場周辺には人が沢山いたものと考えられる。

 そうである場合、そもそも運転手は、結果発生を支配できる状況にいたということが言えないことから、作為義務が肯定できないため、不作為犯は成立しない。

 東京池判昭40.9.30では、過失による事故発生後、自分の自動車の助手席に被害者を載せることによって結果発生を支配できる状況が発生している。このことから、当該状況及び事故という先行行為(又は道路交通法上の救護義務違反)をあわせて、作為義務を肯定し、車で病院に連れていくことの作為可能性も肯定した上で、不作為犯の客観的構成要件には該当。さらに、被害者の死亡もやむを得ないと考えていて未必の故意があることから、主観的構成要件にも該当。これらのことから、不作為の殺人罪を成立させる。