国労広島地本組合費請求事件と南九州税理士会事件との比較
国労広島地本組合費請求事件において、労働組合の政治的活動を承認しつつ、構成員に政治献金を義務付けることは許されないとしたのに対して、南九州税理士会事件はそもそも税理士会が政治資金規正法上の政治団体に寄付を行うことそれ自体が許されないとしたことの違いは何に端を発するか。
思うに、南九州税理士会は、強制加入団体という性質も相まって右から左まで多種多様な思想信条及び主義主張を有する者が所属している一方、国労広島地本においては、組合加入者の有する利害関係はある程度一致しており、当然、様々な思想信条を有する者がいるにしても、その幅が税理士会に比べれば狭いことから、組合に政治活動を認めたとしても、構成員の政治活動の自由を過度に制限することにはならないという事情があったのではないか。
「強制加入団体」という税理士会の性質にのみ着目する見解があるが、判例をよく読んでみると、強制加入団体であることも、税理士会の目的を会社のように広範なものと解しない理由のひとつではあるが、それ以前に、設立が法によって義務付けられそれによって設立された税理士会は、その目的が法において直接具体的に定められており、また、大蔵大臣の監督に服する法人であるということも考慮されている。
「強制加入団体であり、実質的には脱退の自由が保障されていない」ということは、税理士会の目的を狭く解して政治活動を認めないことの許容性(相当性)に関するものであって、政治活動を認めないことの必要性については、上記のような、法律上の義務に基づいて設立され、目的が法定され、さらに大蔵大臣の監督に服するという特殊性に求められるべきなのではないだろうか。
ポイント
成文憲法・硬性憲法
・成文憲法←社会契約説。契約である以上それは文書の形にすることが必要(であり望ましい)
・硬性憲法←憲法によってつくられた権力である立法権は根本法たる憲法を改正する資格をもつことはできない。憲法を改正できるのは国民のみである
憲法の特質
①自由の基礎法←自然権の思想
↓
②自由を確保するために、国家権力を制限する(制限規範)
↓
③国家権力から権利・自由を不可侵のものとして保障する規範を中心として公正されている→最高法規
二重の基準
表現の自由を中心とする精神的自由を規制する立法の合憲性は、経済的自由を規制する立法よりも、特に厳しい基準によって審査されなければならない
←(理由)①精神的自由が不当に制限されると民主政の過程そのものが傷つけられてしまい、議会では是正が不可能。②経済的事由の規制については、社会経済政策の問題と関係することが多いが、裁判所は政策の当否について審査する能力に乏しい
憲法の自律性
・国際法的に見て、条約上の権利に基づいたものであり、内政干渉にならない
・国内法的に見て、完全な普通選挙により審議可決された
8月革命説
日本国憲法は、形式的には、明治憲法の改正として成立した欽定憲法であるが、憲法前文では日本国民が国民主権の原則に基づいて制定した民定憲法である旨を宣言している。
→憲法の基本原理を改正することは憲法の根本的支柱を取り除く行為であり一種の自殺行為であって、改正の限界を超えているため、法的には改正は不可能であったのではないか
→たしかに、明治憲法の基本原理である天皇主権主義を、同憲法の改正規定によって改正することは法的には不可能。
→しかし、ポツダム宣言の受諾によって法的に一種の革命があり、それにより明治憲法の天皇主権が否定されるとともに国民主権が日本の政治体制の根本原理となったと考えられる。これにより、明治憲法の条文はそのままでも、その意味は変革。
→日本国憲法と明治憲法との間に形式的な継続性をもたせるための便宜として、明治憲法を改定するという形をとったが、実質的には、国民主権に基づいて新たに国民が成立した民定憲法であると考える
キーワード
国家法人説:国家は法的に考えると1つの法人であり、意思を有し権利の主体であるという考え。君主、議会、裁判所は、国家という法人の「機関」とされる。
19世紀ドイツでイェリネクによって体系化され、支配的な学説となった。
天皇機関説:国家法人説を日本にあてはめたもの。美濃部達吉の著書が発売禁止処分となった事件は、天皇機関説事件と呼ばれる。
暗記事項
主権の概念
①統治権
②最高独立性
③最高決定権
「主権の父ちゃん最高に独立決定!」
マッカーサー三原則
①象徴天皇制
②戦争放棄
③封建制の廃止
「マッカーサーは戦争法の象徴」
国家の三要素
①領土
②国民
③主権
「両国の主」
憲法の特質
①自由の基礎法
②制限規範
③最高法規
「自由制限最高!」
10個の法令違憲
①尊属殺重罰規定
②議員定数不均衡
③議員定数不均衡
④薬局距離制限
⑤森林分割制限規定
⑥郵便法
⑦在外日本国民選挙権
⑧国籍法3条1項
⑨非嫡出子法定相続分(婚外子法定相続分)
⑩再婚禁止期間
「祖父、薬盛り有罪。国外で再婚」
疑問点
・二重の基準を確固たるドグマとして判例を読むべきではないということは分かったが、しかし、新たな憲法問題に出会った時、アドホックに個別の理論を適用していたのでは、統一性がはかれない。二重の基準をベースに、個別具体的な事情を加味して、違憲審査基準を考えるべきであるということか
・八月革命説において、なぜわざわざ「革命」というのか。「革命」の定義が不明。「法的な革命」があれば、文言が変わらずとも、それまでの憲法の中身(性質)が変わるというのは、いまいちよくわからない。
・「八月革命説は法理論としての国際法優位の一元論とも、解釈理論としての条約有移設とも関係なく、成り立つのである」というのがよくわからない。八月革命説の説明の中で「ポツダム宣言は国民主権主義をとることを要求しているので」と言っていることからすると、もし条約よりも憲法が優位であるという前提に立った場合、ポツダム宣言は憲法に違反し無効となって、八月革命説のロジックが崩れるのではないか。